第312回句会報告【兼題句/お題「鍵」】
11月21日に行った第312回句会「兼題句」報告です。お題は「鍵」。
今回もコロナの影響を鑑み、ビデオチャットで行いました。
- 鍵無くし酒瓶抱え立ち尽くす 苦楽亭
- ドア内に合鍵落とす外は雪 十忽
- 掛け違いし鍵ほろほろこぼれ萩 稚女
- 小春日や急の知らせに鍵開ける 智
- 携帯に鍵にマスクと2度戻り 野村
- 鍵っ子の鍵の鈴鳴る夕紅葉 すみれ
- 定まらず家鍵挿せぬ秋の酔い 大橋
- 手荷物は両の拳と鍵ひとつ 風樹
- 鍵穴に百足、嘘をつく大人 与太郎
- 鍵かける外は北風変わる時 みみず
鍵無くし酒瓶抱え立ち尽くす 苦楽亭
2点/選者=稚女、大橋
稚女 評
無季の句、この句はまだ酔っ払っていない句で、好みの酒とつまみを買って家まで戻って来た、さてさて部屋でゆっくりと晩酌をしようとすでに幸せな時間に心ウキウキしながらポケットを探るとあるはずの家の鍵は手に触れず、あらゆるポケットを探っても、ああ無情にも鍵はない、きっとどこかで落としてしまったのに違いない……という情けない顔の作者は誰だろう? あまり気の毒なので1点進呈。
十忽 評
よくある風景。独身で独り住まいだとお手上げの状態です。似たような事を経験した人が多いと思われますが、それがどうしたと言いたい。
智 評
「鍵を無くした」、だから「立ち尽くす」という説明になってしまっている印象。
大橋 評
途方にくれる姿が想像できます。
ドア内に合鍵落とす外は雪 十忽
地6点/選者=智、すみれ、宮原②、めんこ、鉄平
苦楽亭 評
ドア内にと言っているのだから外にいるのはわかる。いまひとつピンとこなかったのは、外はだろうな。外にいて外はと読むことはない。
稚女 評
季語は雪、ドジな人がここにもいた。しかも外は雪のこんな日に。しかし、この句では「落とす」との表現でうっかり落としたのではないように詠める。それでは何故という疑問が生じる。そこが読み取れず……でした。
智 評
ドアの内側にはまだ誰かいるのであろうが、それは誰だろう。外が雪というのは、何か別れをも予感させる。色々想像させる句だと思った。
宮原 評
合鍵を残していくということは、このアパートの住人が出かけて行くところだと思うが、場面はまだ夜も明けきらぬ朝だろうか。部屋の中には恋人がまだ眠っている。出かける用事があるという恋人のためにそっと合鍵をドア内に落としたつもりが思いの外大きな硬質な音が響いてしまった。そこでいつもとどこか違う空気に気がつく。ふと見上げれば雪が降っている。恋人は目を覚まさなかっただろうかと思いながらコートの襟をかき合わせながら駅までの道を急ぐ…。雪が降ると静かに感じるのは雪の結晶の隙間の部分に音の振動が閉じ込められてしまうからだそうだ。静けさゆえに鍵の落ちた硬質な音が際立つ。場面と音の使い方が調和していて、様々な感覚を喚起させるイメージが広がる秀逸な句だと思った。
掛け違いし鍵ほろほろこぼれ萩 稚女
人4点/選者=十忽、野村、みみず、苦楽亭
苦楽亭 評
かけ違いの鍵とこぼれ萩が奇妙にあう、なんでだろう。
十忽 評
違った鍵を差し込んで、思いっきり回して鍵を捩じ切ってしまったのかと思わせるところが面白い。萩がほろほろこぼれるという表現も、硬い鍵と対照的でありながら、鍵が壊れて破片になってゆく様のように想像できる点も面白い。
智 評
「こぼれ萩」でこぼれる様は想像できるので、こぼれる様を表したと思われる「ほろほろ」は余分だった気がした。
野村 評
きれいな紫色のこぼれ萩のようにはかなく落ちる鍵。もう二度と入ることができない場所なのでしょうか。
小春日や急の知らせに鍵開ける 智
人4点/選者=風樹、苦楽亭、すみれ、めんこ
苦楽亭 評
この鍵はどこの鍵、玄関、秘密の小箱、小春日和の穏やかな日に急な知らせって、なんの鍵、謎が謎を呼んでいる。
稚女 評
小春日は冬の季語。晴れた暖かな穏やかな日に急な知らせが飛び込んできて鍵を開けました。というふうに解釈しました。平和を感じる日常は永遠に続くように感じるけれど、ある日、日常に変化が起きる。もしかするとこの季語を反映してこの急な知らせとは思いもよらない慶事なのかもしれない、だって小春日和だもの。この句を解釈するにはもう一つ何かヒントが欲しい。
十忽 評
中七の「急な知らせ」をもっと具体的に表現した方がいいように思います。ピンポーンが鳴ったからドアを開けたのか、それとも金庫の鍵を開けたのか、よくわからない。
智 評
忘れ物をして戻った、という報告になってしまっていると思った。
携帯に鍵にマスクと2度戻り 野村
人4点/選者=稚女、宮原、与太郎、大橋
苦楽亭 評
実体験をそのまま俳句に読んでしまった。
稚女 評
マスクは冬の季語。そうそう、やっとそれにも慣れて来たけど。目下の三種の神器だね。
十忽 評
下五の2度が気になりました。携帯と鍵とマスクの三点を取りに戻ったので、3度戻ったようにも錯覚しそうなところは工夫の余地がありそう。
智 評
忘れ物をして戻った、という報告になってしまっていると思った。
大橋 評
ものすごく共感できました。
鍵っ子の鍵の鈴鳴る夕紅葉 すみれ
天8点/選者=稚女、智、十忽、野村、みみず、風樹、与太郎、大橋
苦楽亭 評
鍵っ子の句もっとあるかと思ったら1句だけだった。季語の選び方もいいし、取りたかった句。
稚女 評
夕紅葉は秋の季語。隣の小学3年生は鍵っ子だ。鍵を首から下げて登校し、夕方、戻ってくる。鍵には鈴がついていて共同住宅の壁に反響してよく響く、今日も秋深まる中、紅葉が夕陽に美しい道を友人と連れ立って帰って来てこの建物の前で「じゃね」と言って別れ、自分の家へ向かっているのだろう。隣人の私もあの鈴を耳にするとほっと安心する。というような優しい解釈ができました。中七の鍵の鈴なるという「鍵」の繰り返しは不要とも思いますが。
十忽 評
鍵が二回つかわれているが、その使い方がいい。句の流れもスムーズで夕紅葉に焦点が絞られている点が見事。
智 評
鍵っ子の寂しさが鈴の音に乗せられて夕暮れの紅葉に溶けていく情景が浮かんでくる。
大橋 評
秋の夕暮れのさびしげな感じと一人で下校するこどもの愛おしさが伝わってきます。
定まらず家鍵挿せぬ秋の酔い 大橋
2点/選者=苦楽亭、すみれ
苦楽亭 評
秋の酔いがいい、酒飲みは あるあると思うだろうな、秋の酔いと読んでいるのだから、家と読むのはどうだろうとゆう思いはある。
稚女 評
秋が季語。定まらずという上五を住所不定?と最初は読んでしまいましたが、定まらないのは体でした。しかしこの方は鍵はしっかり保持していてただ、鍵穴に差し込むことができないほど酔ってしまっているのだ。まあ、このタイプは秋、冬、春、夏ともこのような句ができそうな方なのでは?
十忽 評
この句も一番の句と似ている。よくある風景で発想が平凡。
智 評
「酔っている」から「鍵を挿せない」という説明になってしまっている印象。「秋の酔い」というのがとってつけたような季語になってしまっていると思った。
手荷物は両の拳と鍵ひとつ 風樹
人4点/選者=十忽、みみず、与太郎、鉄平
苦楽亭 評
面白い句、身軽な旅立ち、ポケットの財布は分厚く武者修行の句かな。
稚女 評
無季。手の荷物、手を使って持つ荷物が両方の拳と鍵一つなのだという。拳の中に何か握っているのだろうか?握っていないなら手荷物ではないということになる、また鍵は何故一つなのか、自分の持っているものは拳と鍵一つだけだとはどのような状態なのか解読できませんでした。
十忽 評
両手と鍵をを手荷物と表現したところがすばらしい。
智 評
手ぶらでどこかへ出かけるところだろうか。男っぽさが伝わってくるが、見たままである印象。
鍵穴に百足、嘘をつく大人 与太郎
3点/選者=野村、風樹、めんこ
苦楽亭 評
何を今更、ぶりっこして、大人は嘘つきだよ、子供を平気で怖がらせる、鍵穴に百足、子供ならわかるが、大人はつがうでしょう。
稚女 評
百足は夏の季語。鍵穴にムカデがいるよ……と嘘をつく大人。とんでもない嘘だけど、何のためにこのような嘘をつくのか、鍵穴とムカデのありようも想像することができませんでした。
十忽 評
歳時記に、百足は夏の季語とありました。「鍵穴に百足」と「嘘をつく大人」の取り合わせはおもしろいのだが、意表を突いただけの表現とも思われて残念。
智 評
「百足」と「嘘」の間の「、」はなくても、読者は一呼吸おいて詠めるので、余計かなと思った。
鍵かける外は北風変わる時 みみず
2点/選者=智、鉄平
苦楽亭 評
下5がわからない、北風が春風に変わったから、それとも北風に変わったので鍵をかけたということ?
稚女 評
北風は冬の季語。この句で鍵は部屋の内側からかけられたと解釈しました。閉じる際に開けたドアの向こうで先ほどまでの風が冷たい北風にかわって来ているようだった。「北風」に変わる時だったのでが、鍵をかけたのか鍵をかけようとして気がついたのか下五の表現ではどちらかはっきりしません。家内から鍵をかけたのなら「外は」との表現も不要ではないかと思いました。
十忽 評
下五の「変わる時」の解釈が悩ましい。単に風向きが変わるのか、鍵をかけた後のそとの様子が変る時なのか、句意を絞り切れないと思いました。
智 評
鍵をかけた瞬間に風向きが変わったことを感じたのだろうか。鍵をかけるという自分の行為と、自分ではままならない自然の動きとの対比がよかった。